潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患のひとつで、大腸の粘膜に炎症が起きることによりびらんや潰瘍ができる原因不明の慢性の病気です。主な症状としては、下痢や血便、腹痛、発熱、貧血などがあります。また、さまざまな合併症が発現することがあります。
潰瘍性大腸炎は、厚生労働省から難病に指定されていますが、適切な治療をして症状を抑えることができれば、健康な人とほとんど変わらない日常生活を続けることが可能です。
難病指定=命に関わる病気!?
難病というと、命に関わる病気、ふつうの社会生活が営めなくなる病気というイメージがありますが、潰瘍性大腸炎は、根治に至る治療のない病気ではあっても、ただちに命に関わる病気ではありません。難病に指定されている理由には、原因が不明であるということのほかに、国が支援して原因や病態を解明し、治療体系を確立しようという狙いがあるからです。
1.1 炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)とは
私たちの体には免疫系という防御システムが備わっていて、ウイルスや細菌などの異物の存在を察知すると体内から追い出そうと活動します。このときに腫れや痛み、発熱などの反応が起こります。この反応のことを「炎症」と呼んでいます。
炎症は体にとって不可欠なものですが、過剰に起こると体を傷つけることになります。炎症が大腸に起こる病気を「炎症性腸疾患」といいます。
炎症性腸疾患のうち、細菌や薬剤などはっきりした原因で起こるものを特異的炎症性腸疾患といいます。感染性腸炎、薬剤性腸炎、虚血性腸炎、腸結核などは特異的炎症性腸疾患です。炎症を起こす原因がはっきりしている場合には、原因を取り除く治療を行います。しかし、炎症性腸疾患のなかには、原因がわからない非特異的炎症性腸疾患もあり、潰瘍性大腸炎はそのひとつです。
潰瘍性大腸炎と似た病気で同じく非特異的炎症性腸疾患に属するものに、クローン病があります。潰瘍性大腸炎は炎症の部位が大腸に限局しているのに対して、クローン病は口腔から肛門まで消化管のどの部位にも炎症が起こるのが特徴です。
―炎症性腸疾患の分類―
1.2 患者数の推移と分布
潰瘍性大腸炎は、以前はまれな疾患とされていましたが、年々増加し続け、平成26年度末には日本で約17万人の患者さんが登録されています。患者数が急増した背景には、内視鏡による診断法が向上したことや、この疾患に対する認知度が向上したことも関係していると思われますが、食事を含む生活習慣の西洋化の影響も大きいと考えられています。
―潰瘍性大腸炎医療受給者証・登録者証交付件数の推移―
発生年齢をみると、男性では20歳~24歳、女性で高くなっていますが、小児や高齢者に発症することもあります。男女比は1:1で差はありません。
―潰瘍性大腸炎の推定発症年齢―
1.3 診断、病像と病変のできる部位
―潰瘍性大腸炎の診断―
潰瘍性大腸炎の診断では、内視鏡検査やX線造影検査、病理組織検査などを行います。特に内視鏡像で、大腸の粘膜に下記のようなびらんや潰瘍がみられることが特徴です。
―潰瘍性大腸炎の病像―
潰瘍性大腸炎では、大腸の粘膜に炎症が起き、びらんや潰瘍が発生します。通常、病変は、粘膜層~粘膜下層までの表層に限られます。
―病変部の写真を見る―
―病変のできる部位―
潰瘍性大腸炎は、基本的には直腸から始まり、連続的に上(口側)へと広がっていきますが、その広がり方は患者さんによって違い、次の3つに分けられます。
・直腸炎型:炎症が直腸だけに限局しているもの
・左側大腸炎型:炎症が脾彎曲部を超えていないもの
・全大腸炎型:炎症が大腸全体に広がっているもの
―潰瘍性大腸炎の病変の広がりによる分類―
1.4 主な症状と合併症、経過と予後
―主な症状―
下痢や血便が認められ、腹痛を伴うこともあります。重症になると発熱、体重減少、貧血などの全身の症状が起こります。
―合併症―
激しい炎症が続いたり、炎症が腸管壁の深くまで進行すると、腸にさまざまな合併症(腸管合併症)が起こることがあります。そのほか、腸以外の全身に合併症(腸管外合併症)が起こることもあります。
腸管合併症としては、大量出血、狭窄(腸管の内腔が狭くなること)、穿孔(腸に穴があくこと)などがあります。また中毒性巨大結腸症といって、強い炎症のために腸管の運動が低下し、腸内にガスや毒素が溜まって大腸が膨張し、全身に発熱や頻脈などの中毒症状が現れることがあります。多くの場合は緊急手術を必要とします。また、長い期間が経過した潰瘍性大腸炎では、炎症が続いたことによりがん化するリスクが高くなると言われています。
腸管外の合併症としては、関節、皮膚や眼の病変などがあります。そのほかにも、アフタ性口内炎、肝胆道系障害、結節性紅斑などがみられることがあります。
―潰瘍性大腸炎の予後―
潰瘍性大腸炎は、寛解(症状が落ち着いている状態)と再燃(症状が悪化している状態)を繰り返しながら慢性の経過をたどります。
発病後長期経過すると大腸がんを発症するリスクが高まることが知られています。特に10年以上経過した全大腸炎型に発がんリスクが高いことが知られており、定期的な内視鏡検査によって早期発見することが重要になります。直腸炎型の発がんリスクは一般人口とほぼ同じです。
―潰瘍性大腸炎の累積大腸癌発生率―
2.潰瘍性大腸炎の治療
①薬物療法
潰瘍性大腸炎は原因が不明であるため、大腸の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと、そして炎症のない状態を維持することが治療の主な目標になります。腸の炎症を抑える有効な薬物療法があります。
薬物療法としては、炎症抑制薬が基本薬となり、炎症が強い場合には、ステロイドが用いられます。免疫調節薬(免疫を抑制するプリン拮抗薬、カルシニューリン阻害薬)、生物学的製剤である抗体製剤などが用いられることもあります。
- 炎症抑制薬
腸の炎症を鎮める働きがあります。寛解維持のために使用されることもあります。経口薬の他に坐剤や注腸剤もあります。
- ステロイド
強力な炎症抑制作用を示す薬剤で、活動期に炎症を落ち着かせて寛解を導入する効果に優れています。経口薬の他に坐剤や注腸剤もあります。
- 免疫調整薬(プリン拮抗薬、カルシニューリン阻害薬)
潰瘍性大腸炎には過剰な免疫反応が関係していると考えられています。この薬は免疫反応を抑制するものです。活動期の症状を寛解に導く効果と、プリン拮抗薬では寛解を維持する効果、ステロイドの使用量を減らす効果があります。
- 抗体製剤
潰瘍性大腸炎では炎症を引き起こす体内物質が過剰に作り出されています。これらの体内物質の働きを抑える薬です。
②その他の治療
多くの場合は内科的治療で症状が改善しますが、内科的治療では十分な効果が得られない重症例や大出血、穿孔、中毒性巨大結腸症、癌化などの重大な合併症には手術が適応になります。
潰瘍性大腸炎は基本的に病変が大腸に限局するので、大腸全摘出が基本となります。現在は自分の肛門で自然に排便することができるよう、肛門を温存する手術方法が主流になっています。
血液を腕の静脈から体外に取り出し、特殊な筒(カラム)に血液を通過させることにより炎症に関わる血液成分を吸着させて取り除き、また血液を戻す治療法です。
顆粒球・単球・リンパ球・血小板を除去する方法と、顆粒球・単球を除去する方法があります。
―血球成分吸着除去療法―