直腸肛門の解剖

肛門疾患を説明する前に、肛門やその周囲の解剖や生理機能を理解することで、ご自身の疾患に対する理解や治療に対する取り組み方も変わってきます。
肛門部は歯状線を境に粘膜側と皮膚側と分れ、粘膜側(中側)は痛みをあまり感じませんが、皮膚側(外側)は痛みを感じます。肛門には静脈叢なる血管網があり、排便時のクッション(いわば水道のパッキンのような役割)があり、便通コントロールに関与しております。そこが腫れることでいぼ痔(痔核)を引き起こします。
歯状線付近には便通をよくするための分泌液を出す腺(肛門腺)が全周に15個前後あり、そこが感染・炎症を起こすことで肛門周囲膿瘍や痔瘻を引き起こします。
肛門括約筋で肛門を閉めたり緩めたりするのですが、自己で絞めたりできる括約筋(外肛門括約筋)と自己でコントロールできない内肛門括約筋があります。これらの括約筋のコントロールができなくなると、便漏れや脱肛(直腸脱)などを引き起こします。
また肛門や直腸は神経が通っており、便通コントロールなどに関与しております。直腸肛門へ行く神経は他に膀胱や前立腺、会陰方向、下肢方向へ行く神経もあり、これらの神経異常が起こると、肛門痛のみならず、便通異常や排尿障害、坐骨神経痛症状も発症する場合があります。
肛門の解剖を知ってどうするとお思いでしょうが、知っておくことで肛門部の痛みや便通異常にもかかわるので、今後の生活習慣の見直しにもつながりますので是非知っていただきたいです。患者様に知っていただきたい点は以下のことです。
- 肛門部には痛みのある部位と痛みのない部位がある。
- 炎症が起こる部位によって症状や腫れ方が変わる。
- 肛門部は他の部位の皮膚に比べて感染に強い!?
- 肛門括約筋の緊張状態で便通が変わる。
直腸肛門の機能

直腸・肛門は消化管運動の最終段階として便の保持と排泄機能がある。それらを担うのに解剖でも説明した通り、粘膜や皮膚、肛門部括約筋、神経・血管等が密接にかかわりあって機能している。それらのいずれかが炎症や障害を来すと、排便障害を起こす。排便障害としては便失禁(便漏れ)、便意促迫、頻回排便、排便困難などがある。解剖部位別にそれぞれ機能があり、痔核も必要な組織である。
痔核
便漏れを防ぐ機能があり、いわゆるパッキンのようなストッパー機能である。痔核が無いと、下痢したときに便漏れしてしまいます。よって痔核の手術では切除しすぎもよくありません。昔の痔核手術でホワイトヘッド手術といって痔核(内外痔核)を全周性に全部切除し、肛門部の皮膚と直腸粘膜を縫い合わせる手術がされていたようですが、それをすると、便漏れや直腸粘膜脱、肛門狭窄を来す方が多いため、現在は行われません(下部直腸がんの手術の場合に肛門温存手術をした場合、これと同じような状態になります)。